日本生物防除協議会の活動報告
~築地宣言および活動報告~

日本生物防除協議会 事務局

1.はじめに
 日本生物防除協議会は、我が国の農業発展のために、生物農薬の利用促進と発展を目指して活動を行っている。昨年度、当協議会として活動の幅を広げ、日本の生物農薬の出荷額が長期的には農薬出荷額の5%を達成するよう様々な活動を行うことを「日本の生物農薬の利用促進に関する声明(以下、築地宣言)」として発表した。
昨年の日本生物防除協議会シンポジウムで、築地宣言の趣旨と活動方針について報告した。この活動方針に基づき、本年度は農業関連の展示会である「アグロ・イノベーション2018」に出展し、築地宣言に掲げた「消費者、農産物流通業界への生物農薬の技術情報を公開し、利点と必要性を訴求する」活動を行ったので報告する。

2.活動報告
「アグロ・イノベーション」は東京ビックサイトで毎年開催されている農業関連の展示会で、2018年は11月20~22日に累計来場者は約8,000名規模で開催された。 
当協議会は、ブース出展と出展者セミナーを行い、生物農薬の活用事例を紹介すると共に、ブース来訪者とセミナー参加者に対し「生物農薬」に対する認知度、関心度のアンケートを行い、生物農薬の現状について調査を行った。

(1)ブース展示及び出展者セミナー(図1)
 ①ブース展示: 生物防除に取組んでいる産地事例のパネル紹介と生物農薬の資材展示を行った。また、生物農薬利用が身近な存在であることを理解して頂くために、JA庄内みどり(山形県)とJA綾町(宮崎県)にご協力を頂き、生物農薬を利用して栽培した農産物の配布も行った。

 ②出展者セミナー: 展示会で行われた生産、流通、トレンドセミナーで、『「生物の力」で農産物の付加価値を高めよう~広がりつつある生物農薬の実践事例~』と題して生物農薬に関するセミナー講演を3日間行った。農業生産者だけでなく、農産物の流通業や小売業の方も多数ご参加いただき、各回とも100名以上の方に熱心に聴講して頂いた。


図1 生物農薬に関する展示と出展者セミナー

(2)生物農薬の認知度に関するアンケート
  展示ブースに来訪頂いた方と出展者セミナーの会場にて「生物農薬の認知度に関するアンケート」を実施し、360名の方から回答いただいた。

① アンケート回答者の属性
アンケート回答者の従事している業種を展示会の入場登録に従い分類した(図2)。農業生産者が回答者全体の22%と最も多く、次いで農産物流通に関わる「小売業」、「商社・卸」、「外食・中食」合計も回答者全体の20%を占めた。農業関連メーカー、官公庁や研究機関等多くの方にアンケートのご協力を頂いた。

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図2 アンケート回答者の従事している業種(回答数:360名)


② 「生物農薬」に対する認知度
「生物農薬」に関する認知度について、「本紹介を受けるまで、“生物農薬”や“生物防除”をご存知でしたか?」とアンケート設問にて調査した。アンケート回答者360名の中で「知っている」との回答は、回答者全体では71%であった(図3)。業種別に見ると、「知っている」と回答した割合は農業生産者が87%、メーカー(農業関連)が100%であったのに対し、農産物流通に関わる「小売」、「商社・卸」、「外食・中食」業種では、35%~50%に留まっており、全体平均に対して明らかな差があった。本アンケートで、築地宣言に掲げた「消費者、農産物流通業界への生物農薬の普及活動」が課題であることが改めて明らかとなった。

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       図3 アンケート結果(1)生物農薬の認知度(回答数:360名)
       設問:「本紹介を受けるまで“生物農薬”や“生物防除”をご存知でしたか?」

③ 生物農薬を利用した農産物に対する関心
「消費者として“生物農薬”を利用した農産物を購入したいと思いますか?」という設問に対して、回答者全体の76%の方が「積極的に購入したい」又は「購入したい」という肯定的な回答だった(図4)。農業生産者と「小売」、「商社・卸」、「外食・中食」等の農産物流通関係者の間で有意な回答の差は見られず、従事する業種に関わらず、生物農薬について理解が進めば7~8割以上の方が生物農薬を活用した農産物を購入したいと希望するとの回答であった。

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       図4 アンケート結果(2)生物農薬を利用した農産物に対する関心(回答数:345名)
       設問:消費者として“生物農薬”を使用した農産物を購入したいと思いますか?

④ 農産物の流通・加工・販売業から見た、生物農薬を利用した農産物への関心
農産物の流通・加工・販売に関わる方に限定し、「生物農薬を利用した農産物があれば、あなたの業務で扱いたいと思いますか?」というアンケートを行い、「小売業」、「商社・卸」、「外食・中食」業種の51名から回答を頂いた(図5)。
生物農薬を利用した農産物に対して、「積極的に取り扱いたい」又は「取り扱いたい」とする回答が7割~8割を占め、業務取扱いに前向きな関心を持っていることが明らかになった。「小売業」、「商社・卸」、「外食・中食」業種では、生物農薬の認知度に課題があるが、認知度が向上すれば、生物農薬を利用した農産物の取扱い増加に繋がる可能性が示唆された。

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      図5 アンケート結果(3)農産物流通業者の生物農薬を使用した農産物の取扱い希望
                 (小売、商社・卸、外食・中食からの回答数:51名)
      設問:“生物農薬”を使用した農産物があれば、業務で扱いたいと思いますか?


3.まとめ
 アグロ・イノベーション2018へ出展し、生物農薬を活用した産地の実践事例をブース出展とセミナーで紹介し、農業生産者、農産物流通、公官庁、メーカー等への認知度を高める啓発活動を実施した。
生物防除に関する認知度・関心度アンケートを実施し、生物農薬について農産物流通に携われている方には、まだ十分な認知が進んでいないことが明らかになった。
一方で、業種に関わらず7割の方が“消費者”として生物農薬を利用した農産物を「購入したい」と回答し、また、農産物流通・加工・販売に携わられている方の約7~8割の方が生物農薬を利用した農産物の業務取扱いに興味を持っているとの回答だった。アンケート結果から、農業生産者に比べ、農産物流通業者には生物農薬について十分に知られていないが、認知度が向上すれば生物農薬を利用した農産物に対する関心も高まる可能性があることが示唆された。
日本生物防除協議会は昨年度「築地宣言」を発表した。これまでの農業生産者への生物農薬の啓発活動だけでなく、消費者、農産物流通業界にも紹介活動を展開することで、目標とする、日本の生物農薬の出荷額が長期的に農薬出荷額の5%(150億円程度)となるよう活動を継続して行きたい。

                                    以上